乱視は正乱視と不正乱視があります。正乱視は角膜や水晶体の屈折面の対称的な歪みによって起こり、不正乱視は主に角膜の表面が凸凹不正な為に起こります。正乱視は眼鏡やコンタクトで矯正可能ですが、不正乱視は眼鏡で矯正できません。(ハードコンタクトレンズで矯正できることはあります。)
正乱視
屈折力が最も強い強主経線と最も弱い弱主経線の異なる屈折が直交し、強主経線は前焦線に弱主経線は後焦線に2つの線状に結像します。前焦線と後焦線の間でぼやけて見えます。前焦線や後焦線の位置も一方にしかピントは合っていないのでぼやけて見えます。焦点が前焦線から後焦線の範囲に広がってしまうため、どこを見てもすっきりとしないぼやけた見え方になり、眼は常に前焦線から後焦線の間で見やすい状態を探そうとして疲れやすい状態になっています。
ものがにじむように見えたり、夜間に月が2重に見えたりする方は、乱視の可能性があります。
乱視の状態は生涯一定ではなく変化しますので、数年に1度は検査をして、今の眼鏡が合っているか確認することをお勧めします。
乱視度数と乱視軸
乱視の表記はどちらの主経線を主にするかで異なります。一般的に乱視は(-)マイナスで表記することが多く、後焦線に結像する弱主経線を主に記すことが多いです。この場合
- 乱視度数:
- 後焦線と前焦線の差が乱視の度数になりますが、後焦線を基準に前焦線までのマイナス度数で表記します。
- 乱視軸:
- 前焦線の方向です。(後焦線と前焦線は直交する方向にあり、それぞれの主経線が結像する焦線は方向が逆になります。)
乱視の分類
1.) 軸方向による分類
- 倒乱視:
- 弱主経線が90°(垂直)の場合 →後焦線は180°
- 直乱視:
- 弱主経線が180°(水平)の場合→後焦線は90°
- 斜乱視:
- 弱主経線が斜めの場合
倒乱視
直乱視
斜乱視
(屈折が強い(マイナス(−)寄り)とカーブは強くなります。)
2.) 網膜と焦線位置の関係による分類
- 近視性乱視:
- 前焦線、後焦線共に網膜から前側にあるもの
- 遠視性乱視:
- 前焦線、後焦線共に網膜から後側にあるもの
- 雑性乱視(混合乱視):
- 前焦線、後焦線が網膜を挟んで前側と後側にあるもの
前焦線と後焦線のほぼ中央に最小錯乱円というぼやけが最も少ない円形部分があります。
調節を最小にするよう見る距離によって前焦線、最小錯乱円、後焦線のいずれかで見るようにしています。どの位置で見ているかで見え方が変わります。
雑性乱視(混合乱視)は遠くも近くもぼやけながら裸眼で見えますが、眼は常に前焦線から後焦線の間で見やすい状態を探そうとして疲れやすく、眼鏡装用をしなければ眼精疲労の原因になることがあります。
円柱レンズ
乱視矯正は円柱レンズの原理を使っています。円柱レンズで1方向の屈折のみ変えます。弱主経線によってできる後焦線と強主経線によってできる前焦線を合わせると焦点になります。球面レンズで弱主経線によってできる後焦線の位置を網膜に合わせ、円柱レンズで強主経線によってできる前焦線を後焦線に合わせると焦点になります。(弱主経線を主にした場合)
円柱レンズは円柱を円柱軸に平行に縦に切った形です。円柱なので横方向にのみ曲率があり、横方向にしか屈折しません。
1点には結像せず、結像した焦点を繋ぐと焦線になります。横方向の光は、縦に線状に結像し、縦の焦線になります。
プラス円柱レンズ
プラス円柱レンズ
凸レンズ状
横方向にのみ曲率がある。
光が屈折し結んだ焦点をつなぐと線状になる。
(横方向の光は、縦に線状に焦点を結び焦線になる。)
マイナス円柱レンズ
マイナス円柱レンズ
凹レンズ状
横方向にのみ曲率がある。
凹レンズの光は拡散するので、広がる方向に 逆にたどった所にできる焦点をつなぐと焦線になる。
(横方向の光は、縦に線状に焦点を結び焦線になる。)
円柱軸と焦線、主経線の方向
乱視軸: 乱視軸は円柱の軸で、軸の方向には屈折しません。
円柱レンズを横にすると横方向だった曲率は縦方向になるので縦方向にしか屈折しません。
焦線も時計のように回転します。
プラス円柱レンズ
軸は縦90°、焦線も縦線90°
乱視はプラス(+)表記
(横方向にのみ屈折)
円柱を時計のように
90°回転させると、
軸も変わる。
軸は横180°、焦線も横線180°
乱視はプラス(+)表記
(縦方向にのみ屈折)
マイナス円柱レンズ
軸は縦90°、焦線も縦線90°
乱視はマイナス(−)表記
(横方向にのみ屈折)
円柱を時計のように
90°回転させると、
軸も変わる。
軸は横180°、焦線も横線180°
乱視はマイナス(−)表記
(縦方向にのみ屈折)
円柱の軸の方向と焦線の方向は同じです。
主経線の方向と屈折の方向は同じです。
屈折の方向と焦線の方向は直交します。横方向の屈折は縦の焦線、縦方向の屈折は横の焦線になります。
トーリックレンズ
実際のレンズは、直交するふたつの異なる曲率を持ったトーリックレンズが使われます。
球面レンズに円柱レンズの特性を合わせたもので、直交する二つの異なる屈折を持つ乱視を矯正します。
乱視の軸は、円柱レンズの軸(焦線)の方向と球面レンズの屈折する方向を表しています。
例) s −1.00 D = cyl – 2.00 D Ax 180°
(s: 球面レンズ、 cyl 円柱レンズ、 Ax: 乱視の軸度)
−1.00 Dの球面レンズの屈折方向は180°、
−2.00 Dの円柱レンズの軸度は180°の乱視を表しています。
- 弱主経線:
- −1.00 Dで180°に屈折、 90°の後焦線に結像
- 強主経線:
- −3.00 D(=−1.00−2.00)で 90°に屈折、 180°の前焦線に結像
円柱レンズがマイナスなので、後焦線が主になっています。後焦線を球面レンズで、前焦線を円柱レンズで矯正し一方向の屈折を変えます、円柱レンズで屈折を変える方向が軸方向になり、前焦線の方向が乱視軸の方向になります。
乱視軸と乱視表
乱視表
(クーパービジョン提供)
乱視表で濃く見える所が焦線の方向です。
縦の線が濃く見える時は90°ではなく180°
横の線が濃く見える時は180°ではなく90°といい、もうひとつの焦線の方向で表します。
このもうひとつの焦線の方向が円柱レンズで矯正される乱視軸になります。
上記の例の場合、 −1.00 Dの球面レンズで弱主経線を網膜に近づけると縦方向90°の後焦線が濃く見えます。
縦方向が濃く見えるので、前焦線は横方向180°となり、180°の乱視と言います。
−2.00 Dの円柱レンズを横方向180°に入れ、180°の前焦線を矯正します。(軸と焦線の方向は同じ)
乱視の軸は円柱レンズの軸と一致しています。